男はしばらくの間幸せに楽しく暮らしていました。
男の描く絵は評判になり、
男が絵を描くといつも大金で売れるようになりました。
その上、買った人はとても喜んでくれるのです。
「こんな素敵な絵が欲しかったんだ!ありがとう!」
男は、絵が売れることも、喜んでもらえることもとてもうれしく思いました。
もっとうれしくなりたいと思い、
男は一日中絵を描き続けるようになりました。
眠る時間も少なくして、その分絵を描く時間に当てました。
食事も簡単に済ませるようになりました。
空いた時間で絵を描くためです。
男はたくさんの絵を描くようになりました。
たくさんの人が喜んでくれます。
でも、だんだんうれしい気持ちになれなくなってしまいました。
うれしいどころか辛い気持ちにさえなっていました。
男は森の泉の神様のことを思い出しました。
男は久しぶりに森へ向かい、泉の前に立ち、古い斧を落としてみました。
神様が出てきました。
「おぉ、久しぶりじゃの。お前が落としたのはこの金の斧か?」
男は答えます。
「いいえ違います。神様私はどうしたらいいのか分からなくなってしまいました。」
神様が言いました。
「そうか。お前が落としたのはこの銀の斧か?」
男は答えます。
「いいえ違います。
神様、私は絵を描くことが好きで、人に喜んでもらうのもうれしいはずなのに
どうして辛くなってしまうのでしょう。。」
神様が言いました。
「お前は正直者だ。この金の斧をあげよう。」
男が斧を受け取った瞬間
金の斧はクシャクシャ~と崩れ落ちてしまいました。
神様は言いました。
「斧は、お前の心の状態を表しておる。
外側は本物の金だがうすーいうすーい紙のような金だったな。
お前が持つことも耐えられずに崩れてしまった。
お前はどうも疲れ切っておるように見える。
以前は楽しそうにしていたが一体どうしたのじゃ。」
男は言いました。
「私は絵を描くことが好きなのです。
私が絵を描くと誰かが喜んでくれてうれしかった。
でも最近、たくさん絵を描いているのに辛くて辛くて仕方がありません。
私はもうどうしたらいいのか分からなくなってしまいました。」
神様は言いました。
「辛くて仕方がないんじゃな。ではどうしたい。
お前はもう分かっているだろう。」
男は少し考えて、言ってもいいものか迷いながら答えました。
「・・・私は、もう、絵を描きたくない・・」
神様は優しい顔で言いました。
「描きたくない間は描かなかればよろしい。
描きたくなったら描けばよい。
自分をうれしい気持ちにしてあげられるのは自分だけなのだよ。
自分が幸せでなければ誰かを喜ばせることはできない。できても短い間だけだ。よく分かっただろう。
まず自分を大切にすること、他は次じゃ。
お前はよく頑張った。今度は自分にも同じくらい頑張って喜ばせてやるとよい。」
男は泣いていました。
心のつかえが取れたせいでも、
これからの生き方を変えようと決心したせいでもありました。
生き方を変えるのには勇気が必要です。
男は森から帰ると、おいしいものをおいしく食べ、
ふかふかの布団に入ってゆっくり休みました。
食べ物をおいしく感じながら食べたのは久しぶりでした。
布団がふかふかで気持ちいいいと思ったのも久しぶりでした。
翌日から男は食事や睡眠、自分の生活を大切にするようになりました。
生活の一コマ一コマに幸せを感じるようになりました。
そのうちに男は絵を描きたくなってきました。
男は、自分がうれしい気持ちでいられる分だけ絵を描きました。
男は、以前よりもさらに素晴らしい絵を描くようになっていました。
男の評判はさらに上がりました。
注文も次から次に入ります。
男がまた疲れていないか気になりますね。
・・男は元気に楽しそうにしていました。
以前疲れていた時と同じくらい絵を描いているのに元気そうです。
絵の修行に来ている弟子が不思議に思って聞きました。
「どうしたらそんなに絵を描き続けることができるのですか?」
男は答えました。
「自分を大切にしているからだね。自分の気持ちにいつも注意を払っているよ。
嫌になったらすぐに描くのをやめていいと思っているし、
疲れたと思った時は絵は描かないで疲れが取れるようなことをする。
そうすると力が湧いてきて、あっという間に絵を完成させることができるんだ。
おもしろいだろ?やらなくていいと思うと、あっという間にできるようになるんだよ。
逆に、やらなくちゃいけない!なんて思っていると辛くて辛くてできなくなる。
本当におもしろいね。」
男はその後も幸せに楽しく暮らしましたとさ。
めでたしめでたし